1990年代前半はアトピー性皮膚炎を治療する中でどうしても解らない事が有りました。

1990年代前半はアトピー性皮膚炎を治療する中でどうしても解らない事が有りました。アレルギー学会で高名な先生に質問しても当時は誰も教えてくれません。『口から入った食べ物がどうやって皮膚まで行ってアレルギーを起こすのか』と言う疑問です。20年ぐらい前までは皮膚科医の間では『食べ物アレルギーはアトピーと関係がない』という意見が主流でしたが、それはこの理由が解らなかったからです。私が考えた自己流の仮説は食べ物が腸の表面でアレルギーの元を作ってそれが血液にのって皮膚まで運ばれると言う説でした。
1994年にリンパ球の中のTh2細胞とTh1細胞のバランスがアレルギーの発病に関係があることが発見され、私が心の中に秘めていた『アレルギー血液病説』と合致して食事アレルギーの謎が解けたのです。食べ物のアレルギーを深く研究した結果とTh細胞理論が一体化して、子どもの腸内細菌バランスの異常が近代のアレルギー激増の背景と考える新理論が生まれました。私はこの新学説を1998年世界の一流医学雑誌に投稿しましたが、患者を無作為に2グループに分けて片方だけに治療を行い、もう片方は放置するという実験を行わなかった為に『実験方法に問題がある』との理由で国際的には受け付けられませんでした。2000年にフィンランドの大学病院がこの学説を発表して世界最初の発見と認められました。
科学者としての名誉は逃しましたが『患者を実験台にしない』という信念を守り通し、治療優先を医師のモラルと選んだ事を誇りに思っています。